「ルールを守っていたのに、事故が起きた」
建設現場では、そんな“想定外”の出来事が起こることがあります。
この記事では、私が現場監督として実際に目の前で体験した死亡事故の話を、正直に綴りました。
今でも、あの音を忘れられません
工事現場でよく聞く重機の音でも、鉄筋が揺れる音でもない。
あれは、命が奪われる瞬間の音でした。
その日、現場ではD51(直径51mm)の鉄筋──長さ12mのものを1本吊りで移動させていました。
作業手順も、安全対策も、作業計画書も、きちんと整っていたのです。
「吊荷の下には立ち入らない」と、計画書にも明記され、朝礼でも周知していました。
それでも、事故は起きました。
誰にも予測できなかった形で、命が奪われてしまったのです。
事故の経緯
鉄筋を吊っていたのは、点検済みのベルトスリング。
使用に問題はないと判断されていました。
しかし、そのベルトスリングが突然切れ、
D51の12mの鉄筋が真下に落下しました。
直下には誰もいませんでした。
立入禁止エリアの設定も適切で、作業員もルールを守っていました。
ところが、その鉄筋は落下後、地面で2回バウンドし、
約15m離れた場所にいた作業員に直撃。
その作業員は、即死でした。
現場の状況・安全体制
- 当日の作業計画書には「吊荷直下立入禁止」と明記
- 被災者は直下ではなく、15m離れた位置で作業中だった
- 労基署および警察の調査でも、現場責任者の過失は認められなかった
書類上も、第三者から見ても、明らかなミスはありませんでした。
それでも、人の命は失われました。
あの日から今も思うこと
「ちゃんとやっていたのに、なぜ…」
何度も自問自答しました。
計画上は問題なし、ルールも守られていました。
でも、現場というのは“想定外”が起きる場所なのです。
「たまたま」が命を奪うことがある。
その“たまたま”をどこまで想像し、備えるか。
それが、現場を預かる立場に求められる力だと今は思っています。
この事故以降、私はKY(危険予知)活動の重要性を強く意識し、
現場で繰り返し伝えるようになりました。
ルールを守るだけでは、守れない命がある。
だからこそ、考え抜く力と声をかけ合う雰囲気が、現場には必要だと思うのです。
最後に
この事故のことを、誰にも忘れてほしくありません。
現場で働くすべての方に、知ってほしいと思っています。
この記事を書いたのは、誰かを責めたいわけでも、この出来事を特別な話として扱いたいわけでもありません。
「ちゃんとやっていたのに起きた事故」が現実にあることを伝えたいと思ったからです。
そして、その現場を目の前で経験した自分が、
この出来事を誰かの“安全意識”に変えることができるなら、
それが、亡くなった作業員の方への、せめてもの責任だと感じています。
※この記事の経験をもとに、現場で実際に使えるKY活動のネタや朝礼コメント例など、実務に役立つコンテンツを近日公開予定です。
「もしもの一歩手前」を防ぐヒントになれば嬉しいです。
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